この一年を振り返って(坂田東一 駐モルドバ日本国特命全権大使)

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坂田大使

 2011年10月にキエフに着任して以降,日本とモルドバとの友好親善の増進のために,経済協力や文化交流等をはじめとした各分野での両国間の関係強化のための協力を継続してきました。私が本年2012年3月にルプ大統領代行(当時)に信任状を捧呈してから9ヶ月余ですが,この間に計7回モルドバ訪問の機会を得ました。以下にそれぞれの訪問の際の主な成果を中心に,この一年の日・モルドバ関係を総括したいと思います。

 【3月(信任状奉呈・東日本大震災及び外交樹立20周年レセプション)】 

 3月には2回モルドバを訪問しました。同14日に初めてモルドバを訪れ,ルプ大統領代行(当時)に信任状を捧呈しました。その際には,フィラト首相やレアンカ外務・欧州統合相とも日・モルドバ関係についての意見を交換し,モルドバ大使として仕事を本格的に開始しました。そして,同22日に再度モルドバを訪れ,東日本大震災1周年の追悼・復興及び我が国とモルドバの外交関係樹立20周年記念(3月26日がその記念日)のレセプションを開催しました。同レセプションには,モルドバ政府代表としてラザル副首相兼経済相が挨拶をされたほか,ウサトゥイ保健相の出席を得て,東日本大震災後から我が国の復興支援に協力・応援をしていただいたモルドバ国民の皆様に日本からの感謝の気持ちを表する機会となりました。
   また,3月下旬にはポポフ外務・欧州統合次官が日本を訪問し,浜田外務大臣政務官(当時)との間で日・モルドバ政務協議が行われました。更に,外交関係樹立20周年を祝い,野田総理(当時)とフィラト首相,玄葉外務大臣(当時)とレアンカ外務・欧州統合相の間で記念書簡も交換されました。

 【4月・10月(ティモフティ大統領表敬・貧困農民支援(2KR)署名及び引渡式)】

 4月に訪問した際には,長期間空席となっていたモルドバ大統領に選出されたティモフティ大統領を表敬訪問しました。ティモフティ大統領からは我が国政府による対モルドバ支援への感謝が述べられ,市民レベルの交流を含めた二国間の政治・経済関係強化にむけて協力していくことを確認しました。
 また,同訪問の際には,ブマコフ農業食品産業相との間で,貧困農民支援(2KR)第9トランシェにかかる書簡の署名・交換式を実施しました。これによって,日本政府は,農業国であるモルドバの農民に対する支援を目的として,作物の増産に必要なトラクターを整備するために約1.3億円の資金を供与しました。その後,10月の訪問の際,私も出席して,フィラト首相やブマコフ農業食品産業相の見守る中,トラクター58台を農民の方々に引渡す式典がとり行われました。
 モルドバは,チェルノーゼムという肥沃な土壌に恵まれていますが,農業生産に必要な資機材が不足しており,中小規模の農民は最新技術の導入を行うことが困難である上,今夏激しい干ばつにみまわれたように,自然災害が頻繁に発生しています。今回のような協力を通じて,モルドバの食糧生産性が向上し,ひいては貧困削減に資することができると期待しています。

 【6月(日本商工会所属日本企業との視察)】

 二国間関係の発展のためには,両国の経済関係の着実な進展が重要です。現在,日本とモルドバの年間総貿易額は,2011年の実績でおよそ4,500万ドルにとどまっていますが,この数字は日本とウクライナの総貿易額の3%程度にすぎず,残念ながら現在,二国間の経済交流は活発とは言えません。実際,モルドバには,自動車,家電,化粧品,タバコ等,日本製品の販売代理店は複数あるものの,日本企業の駐在員事務所や現地法人はありません。しかしながら,日本企業のモルドバでの活動が少ないのは,モルドバに魅力がないためではなく,モルドバに関する十分な情報がなく,そのポテンシャルが適正に評価されていないのが主たる原因であると思います。
 このため,私は,まずは多くの日本企業にモルドバを知って頂くため,6月11日~13日にウクライナ日本商工会に所属する日本企業7社と共にモルドバ視察を行いました。現地では,フィラト首相,ラザル副首相兼経済相,ブマコフ農業食品産業相及びウサトゥイ保健相とそれぞれ会談し,また,モルドバ商工会議所のクク会頭とも会合を持ち,ワイナリーのシャトー・ヴァルテリーも視察しました。モルドバ側からはいずれも,日本企業のモルドバ進出への大きな期待が表明されました。参加した日本企業各社にとっても,モルドバのビジネス環境を調査する有益な機会になったと思います。今回の視察をきっかけとして,今後,日本企業のモルドバへの関心が高まり,将来,具体的なビジネスにつながっていくことを期待しています。
 なお,モルドバの主要産業及び主要輸出品はワインです。私は,モルドバ訪問の機会を捉えて,クリコヴァ,ミレスチ・ミーチ,シャトー・ヴァルテリー,プルカリ,アコーレックス・ワインといった複数のワイナリーを訪問しましたが,いずれのワイナリーも国際的に通用する素晴らしいワインを生産しています。実際,モルドバ産ワインは,多くの国際コンクールで賞を受賞するなど,国際的に高い評価を受けており,欧州,CIS諸国,アジア等,多くの国に輸出されています。残念ながら,日本への輸出はごく一部の製品に限られています。今後,モルドバの素晴らしいワインを是非とも日本の多くの消費者に知って頂くために尽力していきたいと思っています。

 【11月(対モルドバ技術協力・外交樹立20周年記念文化行事)】 

 11月の訪問では,日・モルドバ外交関係樹立20周年を記念する文化行事として,キシナウにおいて,クラシック音楽界でCDのミリオンセラーを誇る世界的な巨匠であるピアニストのフジコ・ヘミング氏を迎え,モルドバ国民の皆様に日本の音楽家による世界最高レベルの演奏を披露する機会を得ることができました。フジコ・ヘミング氏の演奏は,演奏終了後のスタンディング・オベーションや演奏に感動し涙ぐむ人たちもいたほど,モルドバの皆様に大きな感動をもたらしました。モルドバの皆様には日本の文化芸術をアピールする機会が少ない中,このような機会が得られたことを大変嬉しく思います。
 同訪問の際には,対モルドバ技術協力として実施された,「国土空間データ基盤構築のための基本地図データベース作成プロジェクト」の完成セミナーにも出席しました。JICAより派遣された専門家の方々と,モルドバの国土地籍庁や関連機関の職員が中心となって,今回のプロジェクトで得られた成果や今後期待される活動などのプレゼンテーションが行われ,会場いっぱいの参加者やマスコミの方々が興味深そうに耳を傾けていた姿を嬉しく思いました。また,地図等の国土空間情報は,国土の開発,農業の発展,環境の保護などの鍵となる重要なものですから,こうした基盤的な支援を日本が手がけられたことを光栄に思います。

 【12月(草の根署名式・天皇誕生日祝賀レセプション)】  

 12月の訪問では,ウサトゥイ保健相の出席を得て,平成23年度の草の根無償資金協力案件の引渡式を実施しました。この案件の支援対象は,キシナウ市立の小児感染症病院という,感染症に特化し,モルドバ全国から小児を受け入れている病院です。子どもたちの医療環境が改善されることを願って,超音波診断装置や血液分析装置など,基本的な診断能力を強化するための医療機材を供与しました。ウサトゥイ保健相からは,医療保健制度の改革に取り組んでいるモルドバは日本を戦略的パートナーとみなしており,これまでの数々の支援に感謝するとともに,今後の協力に対しても期待の言葉が発せられました。
 そして,同14日,本年を締めくくる行事として,天皇誕生日祝賀レセプションをキシナウにて開催しました。日本とモルドバの外交関係樹立20周年の最後の式典に相応しく,本レセプションには,フィラト首相,カルポフ副首相及びブマコフ農業食品産業相他の政府要人をはじめ,国会議員や経済・経済協力,文化等の様々な分野から多数の参加者を得ることができました。残念ながら,日本はモルドバに公館を有していませんが,こういった行事に多くのモルドバの皆様に参加していただくことは,大使として大変嬉しいことです。
 モルドバを訪れる際にいつも感じることは,モルドバの人々はフレンドリーかつ実直で明るく,欧州に近い感覚を持っているということです。モルドバは,沿ドニエストル問題を抱え,今のところ経済的には豊かとは言えませんが,EU統合を最優先課題に掲げる現政権のもと,着実に欧州に向けた道のりを歩んでいます。民主主義という価値観を共有するモルドバの政治的安定及び経済的繁栄は欧州・アジア地域の安定に資するとの観点から,今後も日本政府は農業,保健及び教育の発展,また,社会基盤の構築やエネルギー効率の向上といった分野を中心に支援していく必要があります。2013年も,日本とモルドバの交流を更に活発化させるべく館員一同とともに力を注いでいきたいと考えています。皆様のご支援・ご協力をよろしくお願いいたします。

モルドバ駐箚日本国特命全権大使
坂田 東一
(2012年12月20日)
 
 
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