大使報告(その1)

2015/5/1

 昨年10月下旬に赴任して半年経ちました。5月に入り,キエフの街は緑におおわれています。着任以来,ウクライナ問題の平和的解決に資すること,ウクライナの改革努力を支援し,ウクライナが豊かで強固な国になるようウクライナ政府と協力すること,日本がウクライナの主要な支援国であることにつき,ウクライナ国民の理解を得ること,及びウクライナ情勢につき正確な分析を行うことを大使館の目標としてきました。
 以下,その観点から,過去半年の成果につき振り返ってみたいと思います。

1 ウクライナ要人との対話
 私がまず精力を注いだことは,ウクライナの指導者との対話を促進することです。幸い,ヤツェニューク首相とは,共通の友人を通じて三時間以上差しで話し合う機会を得ましたし,クリムキン外務大臣はウクライナ外務省の慣例を破って,2回も私の公邸の夕食会に来られました。ファーストレディであるマリーナ・ポロシェンコ大統領夫人には,日本の草の根支援に興味を持って頂き,二回直接ブリーフをする機会を得るとともに,近く私と一緒に草の根支援の現場を訪れるべく調整を行うことになりました。このこともあって,私が昨年末,ポロシェンコ大統領夫妻に挨拶する機会を得た際,ポロシェンコ大統領よりは,「日本の温かい支援に感謝する」との言葉を頂きました。その他,ズーブコ副首相,アヴァコフ内務大臣,ヤレスコ財務大臣,アブロマヴィチュス経済発展・貿易大臣をはじめとする主要閣僚と頻繁に会談しましたし,ポロシェンコ大統領の外交補佐官であるチャーリー大統領府副長官とは,何時間にもわたり外交問題を議論する機会を得ました。また,日本からは,岩井経済産業大臣政務官,薗浦外務大臣政務官の訪問があったほか,3月にはクリムキン外務大臣がアジアでは初めて日本を公式に訪問し,安倍総理大臣,岸田外務大臣,宮沢経済産業大臣などとの会談を行いました。

2 日本の支援
 昨年のマイダン以降,日本はウクライナに対して18.4億ドル(約2000億円)にのぼる支援を行っていますが,これは一国としては最大の支援額です。特に,ボルトニッチ下水処理場の改修,警察改革のためのハイブリッドカーの提供,財政支援のための4億ドルの拠出,草の根支援は当国において高く評価されています。その他,JICAによるセミナーを通じて,汚職対策,民主化支援を行っておりますし,近く,専門家をウクライナ政府に派遣することも検討しております。このような日本の支援に関しては,ヤツェニューク首相が私に,現在ウクライナにとって最も重要であり,頼りにしている国の3カ国のうちの一つは日本であると明確に言われたことを報告したいと思います。
 また,私は日本のこのような支援をウクライナ国民に理解してもらうために,テレビ,新聞,雑誌のインタビューに多く答えるとともに,スロヴヤンスク,クラマトルスク,ハルキウといった東部の町に出張し,現状を視察し,その地域のマスコミのインタビューに答えるなどしました。さらに日本の支援の引き渡し,署名式に関しては,ズーブコ副首相,アヴァコフ内務大臣に出席をお願いしました。これら実力大臣の出席により,プレスにおいて日本の支援が大きくとりあげられました。

3 ウクライナの改革努力
 ウクライナは,91年に独立したときには,工業,農業に恵まれ,当時の東ヨーロッパ及びソ連圏においては最も発展の可能性を秘めた国と言われました。残念ながら,その後の発展は期待を裏切るものとなっております。よく言われるのは,政府内の汚職の蔓延,少数者による富の独占(オリガルヒ問題)ですが,現在,ウクライナはロシアによる不法なクリミア「併合」及び東部不安定政策に直面し,国を強くするために国内改革に真剣に取り組んでいることを報告したいと思います。例えば,汚職の温床と言われた交通警察官に関しては,そのほとんどを実質的に解雇し,新たに透明性を持った試験による採用及び訓練を行っております。また,オリガルヒの支配を弱めるための法律を通過させています。その他,財政の安定化のために,今まで行われていた過剰な補助金のカットをも進めています。これらのいくつかは国民に多くの負担を強いるものですが,建国以来の国難に向かって,今のところ国民はそれに耐えるとの姿勢を見せています。

4 東部及びクリミア情勢
 私がよく受ける質問は,東部及びクリミアにおける情勢はいつ安定するかということです。この答えはなかなか難しいものではありますが,昨年9月及び本年2月にロシア及びウクライナを含む関係当事者の間で,少なくとも東部情勢に関しては安定のための合意(ミンスク合意)が結ばれ,現在その実現のために日本をはじめとする米国,ドイツ,仏,EUといった主要関係者が最大限の努力を行っていると言うことです。東部情勢解決に向けて,国際社会が一丸となって努力しているという事実を報告したいと思います。
 また,ウクライナは欧州でロシアを除けば最大の面積を誇る国なので,東部及びクリミアというごく一部の地域を除けば,キエフをはじめとして平和で安定した地域がほとんどであるということをお知らせしたいと思います。

5 企業の活動の可能性
 このように,現在,ウクライナは安定化のために努力をしている状況にあり,為替,財政の安定化のために,非常手段として経済活動に関していくつかの制限を設けていることは事実です。他方,ウクライナは良質で安価な労働力を有しているのも事実であり,現在国を挙げて取り組んでいる国内改革が進めば,ウクライナが豊かな国になることは十分可能であると考えています。東部の一部の地域を除けば,善良なウクライナの国民性を反映して,キエフをはじめとするウクライナの大部分の治安は他のヨーロッパの都市と比べても良いと言えます。キエフをはじめとする主要都市には,立派なオペラ座があり,オペラ,バレエの水準も極めて高く,長い歴史を誇る各地には教会,庭園といった貴重な文化財が多くあるので,観光にも優れています。日本大使館は,ウクライナ政府と太いパイプを有しております。これまでも企業関係者の要請に応え,私が直接大臣に政策の見直しをお願いしたこともありますので,ウクライナに投資,または貿易を行いたいという企業関係者がおられましたら,遠慮なく日本大使館に相談して頂ければ,できる限りの対応を行いたいと思っております。

2015年5月
ウクライナ駐箚日本国特命全権大使
角 茂樹